「自分の名前や企画名は、当たり前に自分のものである」と思っていませんか? 実は、知財の知識がないまま活動を続けることは、思いがけない「大炎上」や活動の危機を招くリスクを孕んでいます。Vチューバーやネットクリエイター界隈で実際に起きた炎上事例の背景と、そこに潜む知財のルールを詳しく解説します。「なぜこんなトラブルが起きるのか?」が分かるよう、3つの代表的なパターンの事例を分析してみましょう。
事例①:みんなの文化が独占される?「ゆっくり茶番劇」騒動
最も世間に衝撃を与えたのが、2022年に起きた「ゆっくり茶番劇」の商標登録騒動です。
- 何が起きたか? 長年、数え切れないほどのクリエイターが自由に使っていた動画ジャンル名「ゆっくり茶番劇」を、ある一個人が特許庁に出願し、商標登録されてしまいました。その権利者が「今後この名称を使用する者は、年間10万円の使用料を支払え」とX(旧Twitter)で発表したことで、ネット全体を巻き込む大炎上となりました。
- 【知財の解説】なぜこんなことが起きたのか?(先願主義の罠) 日本の商標制度は「先願主義(早い者勝ち)」です。特許庁の審査官も、ネット上のすべてのネットスラングやコミュニティ用語を完全に網羅しているわけではありません。そのため、「特定の誰かのものではない共有の言葉」であっても、誰も登録していなければ、審査をすり抜けて一個人に権利が与えられてしまうリスクがあるのです(最終的にこの権利は放棄されました)。 この事件は、「自分たちの文化を守るためにも、適切な形での権利保護(あるいは他人に取られないための防衛的登録)が必要である」という教訓を残しました。
事例②:「中の人(魂)」と「キャラクター名」の分離による炎上
企業に所属する(いわゆる「企業勢」)Vチューバー界隈で度々ファンを巻き込んだ炎上や議論になるのが、活動終了(卒業・契約解除)時の名前の扱いです。
- 何が起きたか? あるVチューバーが爆発的な人気を得た後、事務所とのトラブル等で契約解除になったとします。ファンは「あの声、あの配信者(中の人)こそが〇〇ちゃんだ」と認識していますが、中の人はその後、二度とそのVチューバー名やアバターを使うことはできず、別の名前で活動を再開せざるを得ません。これがファンの間で「名前やキャラクターを取り上げられた」と事務所への批判(炎上)に繋がることがあります。
- 【知財の解説】権利は「作った人(企業)」にある 知財の観点では、「Vチューバーの名前の商標権」や「アバターの著作権」は、それらを企画・出願した事務所(企業)に帰属します。どれだけ「中の人」の個性で人気が出たとしても、法律上、キャラクターという財産は事務所のものです。 これは素人の感覚(感情)と法律(権利)が大きくズレやすいポイントです。個人Vチューバーが企業に所属する場合などは、「この名前の商標権は最終的に誰のものになるのか」を契約で明確にしておかないと、後々自分の名前を失うことになります。
事例③:海外での「商標トロール(先取り)」問題
日本の有名Vチューバーが直面している、もう一つの大きなトラブルが「海外での商標の先取り」です。
- 何が起きたか? 日本の有名Vチューバー事務所(ホロライブやにじさんじ等)のタレント名が、中国などの海外において、全く無関係の第三者によって勝手に商標登録されてしまう事例が多発しています。
- 【知財の解説】商標は「国ごと」に必要(属地主義) 商標権は「登録した国の中でしか効力を持たない(属地主義)」という大原則があります。日本で商標登録していても、中国で別の人が先に登録してしまえば、中国国内ではそのVチューバー名を使ってグッズを売ったり、配信の収益化を行ったりすることが困難になります。「悪意のある第三者」がこれを盾に高額な買い取りを要求してくるケース(商標トロール)もあり、グローバルに活躍するVチューバーにとって、進出予定の国で素早く商標を押さえることは死活問題となっています。
まとめ:感情と法律のズレが炎上を生む
Vチューバー界隈の商標トラブル(炎上)を分析すると、「ファンや本人の『感情・愛着』」と、「商標制度の『早い者勝ち・契約重視のルール』」の間に大きなズレがあることが原因です。
「自分が考えた名前だから」「みんなが使っている言葉だから」という感覚は、法律の前では必ずしも通用しません。炎上や活動停止の悲劇を防ぐためには、「自分(たち)のブランドは、ルールに則って自分たちで守る」という知財の知識が不可欠なのです。不明な点がありましたら、是非、SJ知財弁理士事務所にご相談ください。