消費者庁公表――デジタル取引と消費者契約をめぐる2つの中間取りまとめの概要
2026年9月10日、消費者庁は、デジタル社会における消費者取引の適正化に向けて検討を進めてきた二つの検討会の中間取りまとめを公表しました。
一つは、「デジタル取引・特定商取引法等検討会」の中間取りまとめです。ここでは、インターネット取引におけるダークパターン、詐欺的な定期購入、レスキュー商法などを念頭に、広告、勧誘、契約、解約などの各段階における消費者保護の在り方について、今後の制度改革を見据えた方向性が示されています。
もう一つは、「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」の中間取りまとめです。こちらでは、消費者の多様な脆弱性への配慮や、サブスクリプションサービス等における解約妨害、契約内容の変更時の通知など、消費者契約法の今後の見直しに関する論点や方向性が整理されています。
今後、中間取りまとめを踏まえて内容を具体化し、パブリック・コメントを実施する予定です。したがって、企業としては、今後の法改正を見据えながら、現在の広告表示、WebサイトのUI、購入・解約手続、生成AIの利用体制などを先行して点検しておくことが重要です。
1. 景品表示法における表示規制の適切な理解と当てはめ
生成AIを用いた広告生成やWebサイト上の表示手法については、景品表示法(景表法)の各規定の適用関係を正確に整理しておく必要があります。
生成AIによる架空レビュー・口コミと景表法
- 優良誤認表示(景表法第5条第1号):実在しない架空の体験談や成果をAIで生成して表示する場合、その内容(「短期間で劇的な効果があった」等)によっては、商品の品質・効果等について優良誤認表示に該当する可能性があります。
- ステマ規制(景表法第5条第3号に基づく告示):景表法第5条第3号(内閣総理大臣が指定する表示)に基づき定められた令和5年内閣府告示第19号(ステマ告示)との関係では、生成AIを利用したか否かにかかわらず、事業者が広告目的で一般消費者を装ったレビュー等を作成・投稿し、それが事業者の表示であることを一般消費者が判別しにくい場合には、ステマ規制の対象となり得ます。
ダークパターン表現と景表法上の論点
- 有利誤認表示(景表法第5条第2号):偽りのタイマーや実際には存在しない限定性を表示し、価格・数量・提供条件等について実際より有利な取引条件であると誤認させる場合には、有利誤認表示等の問題となる可能性があります。
- 不実証広告規制(景表法第7条第2項等):AIが生成した表示であっても、事業者が広告として表示する以上、通常の広告表示と同様に景品表示法上の規制を受けます。例えば、効果・性能について合理的根拠を欠く表示については、不実証広告規制の対象となり得ます。
- 二重価格表示(二重価格表示ガイドライン):元値を意図的に吊り上げた上で割引率を表示するなど、比較対照価格が適正でない場合、有利誤認表示に該当する可能性があります。
2. 特商法・消費者契約法・関連法令の整理
特定商取引法第12条の6(通信販売における最終確認画面等)
特定商取引法第12条の6は、通信販売における最終確認画面等について、分量、販売価格、支払時期・方法、引渡時期、申込みの撤回・解除等の契約事項の表示を義務付けるとともに、消費者を誤認させる表示等を規制しています。
近年問題視されている「単品購入に見せかけた定期購入」や「解約条件の不明確化」については、本条の遵守が極めて重要となります。また、インターネット通販では、最終確認画面において申込み内容を容易に確認・訂正できるようにすることも重要であり、これを欠く場合には特定商取引法第14条第1項第2号等との関係でも問題となります。
購入は容易である一方、解約について過度に複雑な手続を要求したり、実質的に解約を困難にしたりする設計(解約妨害)は、今回の中間取りまとめにおいても今後の制度見直しにおける重要な論点として挙げられています。
個人情報保護法および電気通信事業法(外部送信規律)
Cookie同意バナー等におけるUI設計については、複数の法令との関係を整理する必要があります。
- 個人情報保護法:個人情報保護法上の適正取得(第20条第1項)、利用目的の特定・利用目的による制限(第17条・第18条)、取得に際しての利用目的の通知等(第21条)、本人同意が必要となる場面等との関係を検討する必要があります。特に、利用者が重要な情報を認識しにくいUI設計になっていないかについて、個別に検討することが重要です。
- 電気通信事業法第27条の12(外部送信規律):対象となる事業者・電気通信役務において、Cookieや広告ID等の利用者に関する情報を外部送信する場合には、法令上の対象範囲や適用除外を確認した上で、通知・公表、同意取得、オプトアウト等の必要な措置を適切に設計する必要があります。
3. 国際規制動向と民事上の法的責任・知財リスク
国際的なAI・広告規制の動向
- EU AI Act:EU AI Actでは、AI生成・操作されたコンテンツについて、一定の場合に透明性を確保するための義務が設けられており、ディープフェイク等についても一定の開示義務が規定されています。
- 米国FTC(連邦取引委員会):米国FTCは、消費者レビュー・推薦に関する最終規則(16 CFR Part 465)を制定し、存在しない人物によるレビュー等を禁止しています。FTCはAI生成の架空レビューもその対象として明示しており、AIを利用して生成したこと自体を理由として、表示内容についての事業者の責任が免除されるものではないことにも注意が必要です。
民事責任と知的財産権・倫理上のリスク
- 民事上の損害賠償責任(民法第709条・第719条):不当な表示や不当な誘導によって消費者に損害を与えた場合、要件を満たせば民法上の不法行為(709条)や、広告代理店等との共同不法行為(719条)に基づく損害賠償責任が発生する可能性があります。
- AI生成物に関わる知的財産リスク(著作権・商標・意匠・不競法等):
- 著作権リスク:AI生成広告を作成・利用する際、既存の著作物との「類似性」および「依拠性」が存在する場合、著作権侵害(複製権・公衆送信権侵害)となるリスクがあります。
- 商標法・意匠法・不正競争防止法リスク:AIが出力したデザインや商品名が他者の登録商標、意匠等と抵触したり、著名な商品等表示を不正に利用したりする場合、商標法、意匠法、不正競争防止法等の問題となる可能性があります。
- 肖像権・パブリシティ権:生成AIで実在の人物や有名人に類似した画像を作成し広告に利用することは、権利侵害のリスクを伴います。
- AIによる差別的表現・倫理リスク:生成AIや配信アルゴリズムの挙動により、特定の属性に対する不当な差別的表現や不適切なターゲティングが自動生成・配信されないよう、倫理的観点からのモニタリングも重要です。
4. 企業の実務担当者が確認すべき5つのチェックポイント
「健全なUI改善(ナッジ)」と「不当な誤認誘導」を点検する際、企業の実務担当者が確認すべき判断の視点は以下の5点に整理されます。
【企業の実務担当者が確認すべき5つのチェックポイント】
1. 表示の位置 │ 重要事項(継続条件・解約方法)がスクロール枠外や画面端に隠れていないか
2. 色・コントラスト │ 「同意」を鮮やかな太字、「拒否」を背景と同化する極小文字にしていないか
3. デフォルト設定 │ ユーザーに不利益なオプション(有料補償や定期継続)があらかじめ選択(チェック)されていないか
4. 選択肢の非対称性 │ 登録はワンタップ、解約・拒否は多段階のアンケートや複雑な遷移を強いていないか
5. 行動経済学的誘導 │ 心理的焦燥感(タイマー・架空の在庫残数)を偽って提示していないか
5. AI広告の法的リスクを最小化するための実務プロセス
今後の制度見直しを見据え、企業が直ちに広告運用・UI設計・AI利用体制を点検するための実務プロセスです。
企業が講じるべき実務プロセス
- ファクトチェックと「ヒューマンレビュー」の標準化:AI生成テキストに含まれる数値・効果効能表現に対し、人間が客観的根拠資料を照合する事前承認フローを整備する。
- ログ管理と検証可能性の確保:プロンプト・出力履歴を、必要に応じてタイムスタンプ等を付した形で保存・管理し、広告表示の根拠や審査経緯を追跡できるようにする。
- 外部委託契約の改定:広告代理店・制作会社との委託契約において、「再委託先での無断AI利用禁止」「AI利用時の事前申請義務」「法令違反発生時の責任分担」等を整理する。
- A/Bテストの3段階審査(設計・実施・採用):CVR向上のみを追求した結果、誤認を招く表示、過度な心理的圧迫、解約等の重要な選択肢の不当な不利化が生じていないかについて、「設計・実施・採用」の各段階で法務・コンプライアンス上の条件をチェックする。
- 電気通信事業法・個人情報等の表示点検:Cookieバナー等において、「拒否する」選択肢の視視性や通知・公表内容が適正に担保されているか定期点検する。
実務対応チェックリスト
| 分野 | 具体的な点検項目 | 確認 |
| AI生成物・ファクト | AI作成のコピー・説明文に客観的根拠(エビデンス)のない表現が含まれていないか | [ ] |
| 再委託・代理店管理 | 広告代理店や下請制作会社におけるAI利用ルール・契約上の責任関係が明記されているか | [ ] |
| ログ管理・再現性 | プロンプト履歴および出力結果が、必要に応じて追跡・検証可能な形で記録・保存されているか | [ ] |
| ステマ表記 | インフルエンサー施策やAIアカウント投稿において、事業者の表示であることが判別しやすく表示されているか | [ ] |
| 特商法・最終確認 | 最終確認画面で支払総額・契約期間・解約条件が明確かつ適切に表示され、容易に確認・訂正できるか | [ ] |
| 解約導線の適正化 | 解約手続きの手間・階層が、購入・登録手続きと比較して過度に複雑になっていないか | [ ] |
| UI非対称性・Cookie同意 | Cookie同意バナー等で「拒否する」選択肢が「同意する」と等しく認識・選択できるか | [ ] |
| A/Bテスト3段階審査 | A/Bテストの「設計・実施・採用」の各段階で、不当な心理的圧迫や誤認表示のリスクが排除されているか | [ ] |
SJ知財弁理士事務所では、景表法・特商法・個人情報保護法等に準拠したWebサイトのリーガルチェック、AI生成物に関する著作権・商標権リスク診断、各種社内ガイドライン・委託契約書の策定支援を行っております。今後の制度改正を見据えたコンプライアンス体制の先行整備について、ぜひお気軽にご相談ください。